技能伝承の手研ぎ

江戸時代から伝承された日本刀研磨の技能を根底とする、研ぎ職人の手研ぎ。
研ぎのための技能を持つ職人が、刃物をより鋭く、冴えた切れを生み出す。

世界に誇る日本の刃物製造技術の最後の工程が「研ぎ」。
日本の刃物は元来「鋼」を原料として作られてきた。
まず、日本で生み出される「鋼」そのものが、世界で類を見ない品質を誇っている。
その品質を失うことなく道具を作る「鍛冶」。
道具としての刃物は「研ぎ」を経て完成する。
さらにその中でも日本刀研磨は仕上がりの美しさも持ち合わせた高い技能が求められる。
なお、日本の包丁は「日本刀」から派生して改良を重ね作られてきた歴史がある。
刃物は生活とともにある手道具である。
日本の刃物は、日本人の道具に対する精神を受け継ぎ、手研ぎで再生可能な道具として作られている。


◆包丁
包丁の冴えた切れは、食材を壊さず、食材本来の味を引き出す。
世界が認める日本人の食に対する繊細な感覚は、食材を生で食べるということ、
その食材を直接舌で味わうという食文化から生まれた。
冴えた切れを「切れ味」というが、この切れ味は食材の味にも明確に反映される。

この食文化が、日本人の包丁の切れを評価する厳しい目を生んだとも言え、
現代製造される包丁も品質が良く、世界的にも非常に高く評価されている。
それは、本職の料理人が使用する包丁以外にも生かされている。

便利な器具を用いた時短を優先する料理も悪くはないが、
生の食材を切る際には、ぜひよく切れる包丁で切っていただきたい。
食材本来の味を感じることは、食育や文化継承の観点からも非常に重要だと考える。


◆鋏(ハサミ)
刃物という道具の中で、包丁と並んで身近なのが「鋏(ハサミ)」。
縫製や園芸で使用する鋏は現代でも「鋼」で作られているものが多く、定評を持つ。
これは、挟み込んで切断するための道具であることから硬い材質を必要としたためであるが、
結果的に切れが長持ちする理由ともなり、鋏を常用する場での一般的な選択肢となっている。

現代の身近な鋏は、鋼以外で作られたものも多いが、総じて言えるのは、
切れなくなった鋏でも、研ぎ直し、調整することで甦るということである。

ただ、鋏の用途によって刃や調整の具合が微細に異なり、
ここにも手研ぎの技能が活かされることになる。


◆ステンレス
現代では、刃物の多くがステンレスなど、錆びにくい材質の金属を使用して作られている。
ステンレスの刃物が世の中に出回った頃は「劣化した鉄」のような品質だったが、
現代では原料の製造技術も進歩し、高品質のステンレス材が使用されるようになっている。

良い品質のステンレス製の刃物は、研ぎ直して使用することができる。
なお、ステンレスは「ステンレス鋼」という鉄を主成分とした合金鋼である。


◆手研ぎによる切れ味
近年、包丁などの刃物は機械を使った研磨が主流となっている。
これは、刃物の製造メーカーの最後の工程が機械による研磨だからだと思われる。
製造工程の最後と同様の作業をすれば善しとした流れができてしまっているようだ。

しかし、使用した刃物をまたより良く使用できるようにするためには、
一様に同じ作業をすればいいわけではない。

たとえば、包丁ひとつとってみても、店頭には数多くの種類が並んでいるが、それぞれ刃の厚みや形状が異る。
刃物という道具は、使えば使った分だけ刃先が減るものである。
また、手道具であることから、使う人や使う場面によって減り方も異なる。
同じ包丁を持っていても、使う人が異なれば使った後は形が違っているということである。

この一本一本異なる使われ方をした、形状も異る刃物を治せるのは、手研ぎである。
刃物研ぎ師は、砥石の上で刃物の厚みを感じ取り、刃物を無駄に減らさないように、
しかし切れない部分がないように、手でコツコツと切れ味のある刃を作っていく。

実は切れ味というものは測定がほぼ不可能である。
機械を使って金属を削り磨けば、一見形の整った綺麗に光る刃物が出来上がる。
しかしそれは「研磨」であり「研ぎ」とは異なる。
切れないことはないが、冴えた切れ味を生むことは極めて困難であろう。

また、切る人にとっての切れ味は、刃物を使っている時に感じるものであり、
それは切った相手(素材)に伝わるものである。
切れた相手(素材)の具合が切れ味であり、それは結果的に料理や作品に反映されるものである。

本職用の包丁は、必ず手研ぎで仕上げられる。

本来「切れ味」は手作業による「研ぎ」の技能でしかもたらすことのできないものなのだろう。